上級編4 生地がなく

染色したあとは必ず色どめという作業を行います。例えば 京都の鴨川で反物を水にさらす光景がありますが、色とめの作業をしているのです。(現在は観光用にみせているだけ。鴨川の水質も綺麗とはいえないし 工場で設備があるので 鴨川でする必要もありません。 )他に蒸す方法や雪さらしもあります。

下の写真は 約60年前に購入した母の着物の一部分です。色どめが不十分で 赤い染料がとけて、流れ出たわけです。涙を流したようになるので「なく」といいます。

洗いで赤の染料がにじんだ

洗いで赤の染料がにじんだ

銘仙という生地です。現在はほとんど見ない生地です。もともとそんなに強い織物ではありません。銘仙は普段着として一時代を築いたのですが、着物離れがすすんで 姿を消しました。バブル崩壊前に少し復刻したのですが、不況になり また見なくなりました。母の着物で銘仙は他にもありましたが この銘仙だけがこのようになりました。学校の裁縫授業で袷を母が縫うことになり、祖母が出してきた反物でした。 「なく」とわかって祖母が買ったかどうか今となってはわかりません。

よく検品することが大切だとわかります。銘仙は呉服屋さんを通して洗い張りしてもらいました。もどってきた時に、何かヘンだと感じました。「最初からこんなふううになっていたでしょうか?」と呉服屋さんに尋ねると、呉服屋さんは「これないたなぁ。」と一言。 その時はじめて「なく」という言葉を知りました。

なぜ色どめをしないのか?

色どめをすると鮮やかさが鈍ります。色どめしてちょうどいいように染色する必要があります。最初からこうではなかったなら その工程を省略した可能性があります。作業工程を省けば、経費節約ができます。お客様が購入する金額が安いかどうかはわかりません。
他と比べて安すぎると何かあるかもしれないと思い、購入されないかもしれないからです。

悉皆屋さんの仕事は難しい

洗い張りする側も 製造したわけでも、売ったわけでもないのに、ないてしまったら料金をいただくわけにはいきません。手間だけかかって 終わるので、やりたくない仕事です。
「なく」かどうか見抜くのは難しいようです。ある時 もらい物の羽織、置いておいてもじゃまになるだけですので、何かにしようと思いましたが、汚れがめだつので 一度洗おうと思いました。あるお店に洗い張りをお願いしたら一目見ただけで 「これなくよ。」といわれたのです。「なく」ならやめておこうと家に持ち帰りましたが、数年たってほんとに「なく」のか調べてみたくなりました。衿の生地だけ洗ってみたのです。すると なかなかった。そこでべつのお店に持っていくと「なかないと思うけど。」といわれました。 おそらく 「なく」といったお店は 同じような生地でないた経験があるので慎重になったと思います。常識あるお店ですとなかせてしまえば料金をいただけないので、 最初から引き受けない方がいいと判断したのでしょう。

地色が白いと模様がすける

背中に黒い模様がうっすらとありますが これは 袷羽織の裾返しの生地が表側にうつっているだけです。白っぽい生地を購入する時は二重になると、表側にうつるということを知っておいた方がいいかもしれません。

色移り

洗い張りにださなくても 色うつりという現象はあります。例えば 「帯揚げ」の色が着物の身八つ口についたというのを知っています。染料はとれません。しみではないからです。一番きをつけたいのが「振袖」です。お店側のサービスとか振袖セット自体がお安かったとか。お客側としては安くしてもらったとかサービス品だったとかで苦情を言わない場合が多いと思います。お店は苦情がきてから考えますので そこのお店は ずーとその商品がなくなるまで売るのです。

「なかない」着物を買うにはどうすればいいのか?

わかりません。信用できるお店から購入する。こんな普通のことしか申し上げられなくてすみません。信用できるお店というのはアフターフォローがよいお店ということじゃないでしょうか。着物の知識が豊富になれば 呉服屋さんのごまかしや知識のなさがわかります。

上級編5 浴衣

浴衣は長着の仲間ですが、元々 外出する着物ではありません。近くの銭湯に行く時に着るなど、出かけるとしてもご近所でした。長襦袢を着ないのはわかっているのですが、長襦袢を着た時の寸法で作っています。
長襦袢を着た時と着ない時の図を見てください。衿があいてしまいます。このような寸法設定になっている浴衣を適当に着ると衿元があいてしまうのです。最近はレースの半衿をつけてみたり いろいろな小物がありますが ごく普通に着ると衿元があきやすい構造となっています。衽下がりという寸法を短くして 仕立てると、衿元は開きにくくなります。

浴衣と着物を比べた絵

長襦袢を着た着物と長襦袢を着ない浴衣

浴衣(半襟なし) 浴衣 (半襟あり)

長襦袢を着ないので衿がああいてしまう

衽下がりがどこか知りたい方は和裁のコーナーをご覧ください。

浴衣の衿

浴衣の衿がふにゃふにゃになっている人がたくさんいます。そこで ちょっと一工夫。
長襦袢に使う衿芯があります。半襟と地衿の中に衿芯を通して使いますが、浴衣の掛け衿に衿芯をいれると衿がきれいになります。
方法 浴衣の衿の掛け衿の裏側の糸をきって 衿芯が入れれるだけの穴を開けます。表側まで糸を抜かないように、糸がほどけないように玉止めをしておくのも忘れないようにします。

上級編6 喪服と留袖

石持ちと出来上がり繰越巾

「石持ち」とは染め紋を持ち主の希望に応じていれれるように白くしている紋のことです。喪服だけでなく染め紋を入れることを想定いている反物は石持ちにしています。喪服、留袖、黒の羽織が代表です。第一正装の喪服や留袖は五つ紋が入れられるようにしていますが、三つ紋や一つ紋を希望すれば袖や前身頃の石持ちは地色に染めます。背紋の位置


喪服の石持ちと衿ネームの位置

石持ちの位置はメーカーによって多少の違いはありますが、背紋から抱き紋までの長さが決まっています。大人の背紋は衿から1寸5分、抱き紋は肩山から4寸と定められています。
女性の場合 出来上がり繰越巾は8分ぐらいの設定になってります。出来上がり繰越巾が設定より大きくなると 背紋の位置は規定どおりになり、抱き紋が上にあがるということになります。もし出来上がり繰越巾を1寸3分にすると紋の大きさ一つ分が上にあがることになります。 胸のあたりにあるはずの抱き紋が上にありすぎて 不格好になります。

標準の繰越にしなかったら紋の位置がどのようになるのかを説明した図ue6no2
ue6no3


石持ちの位置と肩巾の関係

ue6no4背紋の中心の位置と肩巾の関係を説明た図生地端から3分が背紋の中心になるように石持ちをいれます。紋の中心から上に上がって肩山のところで肩巾を測ります。石持ちがなければ生地巾いっぱいに肩巾がとれますが、背紋があると自由になりません。
裄と関係はありませんが、一度何かの色に染めた着物に表紋などを入れる時はやってみないとわからないといわれます。色を一度抜いて入れる紋のことを抜き紋というようですが、染料によっては綺麗に抜けないそうです。着物を製造した業者さんと紋入れ屋さんは違いますし、製造者に問い合わせる事もできません。そこで出来上がった着物に紋を入れるときは縫い紋をすすめる方が多いです。どうしても縫い紋はいやで抜き紋もできない場合は他の方法があります。綺麗にできるかどうかは紋章上絵師さんの腕にかかっています。 「紋匠堀川」さんで詳しく紹介されています。

ネームの位置

喪服は同じような物ばかりで他人と区別しにくくなります。そこで下前の衿先から3寸ぐらいの位置にネームといって持ち主の名前をいれます。石持ちは丸いですがネームは長方形になります。ネームの下に印が押してあるものもあります。ネームの位置も反物によって多少の違いがありますがだいたい一定です。時に背の高い人ではネームの位置が理想の寸法にできない時があります。理想のネームの位置にすると衿が足りないのです。着た時には見えませんが格好としてはよくありません。

理想の位置にネームがある喪服ネームの位置が上にある図

下前落款の位置下前落款の位置 高い


喪服選びの注意点

ページの上で石持ちやネームについて説明しましたが もし裄が広い人、出来上がり繰越巾を規定より大きくしたい人、ネームの位置も高くなり過ぎないようにしたい人は誂えるという方法があります。時間さえあれば作ってもらえます。お値段が高くなるのではないかと心配されるかもしれませんがそんなにいうほど金額が跳ね上がる事はありません。もともと着物というのはお客様に見本をみていただいて、了解していただいてから作るという商売でもあるからです。
ネームは持ち主の名前を筆で書いて染料を定着すれば終わりです。他になんという技法か名前がわからないのですが全体を染める前に染まらないように名前を入れる技法もあります。これは注文してから作る喪服となります。 中級編8 和服の柄1 落款のところに出ているネームがそれです。興味のある方ご覧下さい。

中級編3 落款について >>

黒喪服を購入する時の注意点

糸の染まり具合 イメージ
「すれ」という難があります。摩擦などによって布の強度を低下させて布の色を白濁化させる現象をいいます。喪服は黒い為に「すれ」がめだちやすいです。
縫っているだけで指の形がつくような品があります。少しなにかに接触しただけで「すれ」がおきるのです。「すれ」はきつくついてしまうと戻らなくなります。このような喪服をお葬式や告別式で着るとどんなことになるか想像してみてください。壁にもたれたり、他人とすれ違ったり、立ったり座ったりを繰り返すうちに喪服がどんどん白っぽくなっていくのです。一日喪服を着て 次の日喪服が白くなっているのでかびと思った人もいるみたいですがこれはかびとは違います。ではどうすればいいか常識的なことしか言えませんが安い物には何かあるを肝に銘じて選ぶということでしょう。
想像 糸の染まり具合喪服に限らずよい色に染める為には何回も染料につける必要があります。糸の染まりが浅いとよい色にはなりません。染色方法はいろいろあるのですが最初から黒色の染料で染めるのではなく下染めといって別の色に染めてから黒色染料で染める方法が一般的です。

下染めの色が記入してある喪服喪服の生地端には下染めを表記しているものがあります。こういうのが 全くないものよりは下染めが表記してある方がいいとおもいます。京都では黒を染める業者さんとそのほか色物を染める業者さんとは区別があるそうです。黒だけを染める業者さんもあるそうです。
「藍下上黒染め」というのが一番上 次は 「紅下上黒染め」となるのですが、
教えてくださった方のお話では 泥染めとか草木染めの黒はほんとの黒じゃないといわれました。たぶんですが、私が今まで縫った喪服は泥染めや草木染めばかり、藍下なんておめにかかったことがないと思います。今は喪服を作る人が少ないし、ほんとの黒染めに出会えるかどうか 出会ってみたいものですが・・・下染め

 

 

 

今の喪服は 深色加工というのをしているものが多いと聞きます。昔ながらの黒染は何度も染めないと黒にならないのが 特殊な加工で 「真っ黒 黒」になるのです。その加工が原因なのだと思いますが 着たあとに着物が汚れてしみぬきにだすと 「しみぬきのできません」ともどってくるのがあります。そうした加工をする業者は しみぬき屋でなないので メンテナンスのこともまで考えていないのだと思います。