丸染め 1

丸染めとは

正絹の着物を染め替えたい時に 「着物をほどかず 染色する」という方法。

条件は 正絹 であること 正絹でないと染めかえできません。つまり「絹と化繊」などの交織の生地ですと正絹だけ染まります。裏生地が化繊ならば染まりません。縫い糸が正絹ならば 縫い糸も染まります。縫い糸が化繊ならば 染まりません。

丸染めのメリット

仕立て代が必要でないので、従来の染め替えよりも安くできるということです。

丸染めのデメリット

ネットでは 多少、縫い目のツレや、縮みが出ます 。とか 上等なお着物はやめた方がいい という説明です。


この丸染めの説明は一枚の丸染め着物を見て作っています。一人のお客様からの提供がありました。この丸染めは呉服屋さんを通して行われたものであり、ネットでも複数のお店がこの方法を紹介しています。
その前に 正絹の基礎知識や着物の仕立てについて知る必要があります。仕立てたまま「どぼん」と染料につけて染め直すので、 「どぼん染め」 といわれるかもしれません。 この方法に疑問を感じるのは家で着物を伸子張りした世代だけなのでしょうか?


正絹の特長

正絹は水につけると多かれ少なかれ縮みます。(物によっては縮まないものあります。)どれほど縮むかは生地によります。よく縮むものは縦方向で 1割 縮んでもおかしくないそうです。160cmの身丈だったら 16センチ縮んでもおかしくないということです。横方向はものさしで測ったわけではありませんが、 半分ぐらい になっているのではないかというのを見た事があります。並巾で36.5センチ~38cmぐらいあります。これが半分ぐらいじゃないかと思うぐらい縮むのです。
正絹の着物はけっして 縮むから悪い生地とうことではありません 。糸の種類や織り方で縮むのです。絹は水によく反応するから 美しく染められるし、染め替えることができます。
「丸洗い」というのがあります。着物をほどかずに綺麗にする方法です。揮発剤をつかって綺麗にします。水は使いません。汚れの種類には水溶性と油性や複合的なもの、不溶性のものと四種類あります。湿気の多い日本では汗をよくかきます。汗は水溶性の汚れなので水で洗う方が綺麗になります。口紅やファンデーションは油性ですので揮発剤を使います。汚れの程度によっては水を使わないと綺麗にできない場合があります。着物全部を水で洗うならば、洗い張りになります。つまり着物をほどいて端縫いをし、反物の状態にもどしてから洗うのです。
ドライクリーニングは湿気の少ないヨーロッパで最初にできたと聞いたことがあります。日本はどうしても水溶性の汚れがあるので ドライクリーニングでも水を使う場合があります。

着物の仕立て方の特長

洋服は糸を見せる仕立てをします。着物にも「飾りじつけ」や「ぐし」といった糸を見せることもありますが 表側に 「縫い目を見せない。」のが着物の仕立てです。糸も摩擦で弱るのです。裏地のある袷では表も裏も縫い目はほとんど見せません。
「きせ」 があります。着物の出来上がり線よりも内側に縫い目があります。着ている時に力がかかって縫い目の部分の生地が引っ張られます。きせは車のブレーキペダルのあそびと同じ役割をしていると思っています。
縮んだ生地はどうするかですが  蒸気をあてながら ひっぱることで元の大きさにもどすことができるのです。 洋服は型紙を置いてその型紙に縫込み分をとり あとは裁ってしまいます。和服はそのようなことは絶対しません。 生地の耳は必ず残します。 耳を残しておかないと元の巾にできなくなります。


ご紹介する着物は一つ紋の色無地です。ピンクから赤紫に丸染めをしました。表生地は紋意匠縮緬 裏地は 八掛けがパレス胴裏はよくわかりませんが羽二重?かなという感じです。実はそれまで 丸染めというのは全く知りませんでした。最初のきっかけは「裄だし」です。丸染めの方法を聞いて 「見えていない部分まで綺麗に染まっているのだろうか?」と心配になりました。でも 実物を拝見すると そんなに違いはないのです。これが「正絹の浸透力」なんだと関心しました。染めむらはないので 裄は広くできると思いました。でも ほかの仕立ての状態をみてこれではだめだと思いました。もし 仕立て屋がこんな仕事をしたら 誰も雇ってくれないでしょう。普通に仕立てて このようにしろといわれてもできません。着物の生地は多種多様です、必ず この色無地のようになるわけではありませんが、多かれ少なかれ このようになっておかしくないと思っています。


染めたあと、この色無地は 「縮んだ」と思います。三種類の生地はそれそれ縮み率が違います。染め上がった状態では表と裏の大きさが異なるへんてこな着物が染め上がったと思います。そしてこの着物を元の寸法にもどさなければなりません。蒸気アイロンを使って 横に縦にと伸ばすと思われます。
当然のことですが 伸ばす起点はそれぞれの縫い目になります。 例えば 背中心に「重し」を置いて 蒸気をあてながら左脇や右脇をひっぱって巾をだしていくと想像します。


全形の写真三枚

丸染めした後の一つ紋色無地 表の後側から 表の前側から そして裏側をひっくり返して撮りました。
表側からの写真を見ると 普通に見えるかもしれませんが 裏側からの写真を見たら この時点で 「なにこれ?」 と思う人もいるのではないでしょうか? 仕立て屋だけかな? 裏側は 「よれよれ」で「ぼこぼご」です。
丸染めした着物 後ろからの写真
丸染した着物 前から
丸染めした着物 裏側

見えていない部分まで染まっているのかを見る。

着物で一番重なっているところは 掛け衿の部分です。 見える部分は表側の掛け衿と裏側の胴裏という生地です。実際には 掛け衿の下には地衿があり その中に 衽の生地と 前身頃の生地があります。
裏衿の胴裏と掛け衿を縫い付けている部分をほどいて、中の部分をひっぱりだしました。ピンボケの写真もありますが 肉眼では色の大きな差はありません。衿の中だけではなく 袖付の中も写真に撮って見ました。
掛け衿の部分

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掛け衿の中の部分
掛け衿の中の部分 衽が見えるところ

袖付の中側

前置きが長いですが、悪い部分だけを強調したくはありませんので 次のページが悪い部分の話です。

丸染め 2

色無地 表側の仕立てについて

残念ながら 丸染めする前の寸法は不明です。大きなところを採寸すると 袖丈1尺4寸 身丈肩から右が4尺2分、左が3尺9寸7分 です。最初から左右の寸法が異なっていたのかどうかはわかりませんが、身丈が肩から4尺ほどということは身長150cmぐらいの人の身丈です。この着物は156cmの人の色無地でした。身丈の寸法はお店によっては異なりますが、通常156cmある人は肩から4尺1寸5分の長さにはすると思います。今は肩から4尺2寸あってもおかしくありません。この着物は一つ紋の色無地です。つまり礼装ですから、足袋を隠すように着るので、身丈は長く必要です。丸染めで身丈が短くなった可能性が高いです。

前頁の全形写真ではわかりませんが もっとアップにするとわかることがあります。「きせ」がほとんどなかったり、縫い目が見えている部分があるのです。

脇裾 縫い目がみえている

 

↑ 上の方にいくときせがないのがわかる左脇の裾部分です。
よく見ると縦のラインが左脇です。下の方は縫い目が見えませんが 上にいくと 縫い目が見えています。縫い目が見えるような仕立ては普通しません。

「きせ」 の巾を他の着物と比べてみる。

 

きせのある脇の部分

脇のきせなし

身丈や袖丈をどうやって伸ばしたのか?

着物の形のままに丈を伸ばすのは至難の技だと思います。ただ この色無地に関しては おそらくこのようにして丈を伸ばしたのだろうと推測しています。 染めた後に 袖と身頃ははずしたのではないかということです。少なくとも袖付の裏側をほどきました。
この着物の裏側の袖付は和裁士からみると異常な方法で袖付をしています。裏側の袖付の縫い目がででいるのです。何かをするためにほどいて いい加減な人が 裏側だから見えないからいいだろうと ザクザク縫ったという気がします。

袖付の裏側 縫い目がみえている

 

 

最初に説明したように 身丈が完全にもとのサイズになったのかどうか疑わしいです。袷の着物というのは 吊った状態の加減を見ます。表側にふくろがはいるような仕上がりにしてはいけないのです。同時に 裏側のゆるみにも頃合いというのがあります。前頁の全形写真ではわかりにくいのですが 裏側からの裾の写真を拡大して撮りました。

前身頃の裏側ですが 裏側にたくさんのゆるみがはいっているのです。後身頃はこれに比べると微々たるものです。仕立て屋は裏側には同じようにゆるみをいれます。これは いくらなんでも多すぎます。表と裏のつりあいが悪い時は「八掛けと胴裏のはぎの部分」で縫い直して調節します。着物の表と裏のつりあいがよくわかっていない人が仕上げたのです。

裏のゆるみがおおすぎる

丸染め 3

色無地 裏側

裏地の縦方向の縫い目がほとんど見えているような状態で 「きせ」がありません。縫い目がぼこぼこになっているのです。

八掛けの背中心

八掛けの背縫い部分 縫い目がみえて 生地が傷んでいるr
写真は縫い目が見えるように浮かしてとりましたが、普通は浮かしたとしても 縫い目は写せません。糸が二枚の生地を通っているのがわかりますが よく見ると 縫い目と縫い目の間の生地が傷んでいるのがわかります。織目が粗くなっています。

丸染していない別の着物の八掛けの背縫い部分


裏の衽付け線

衽つけ線ががたがたです。

下の写真の位置を示した図図の囲んでいる部分を拡大した写真です。私がわざと衽付け線をがたがたにして写真を撮っているのではありません。自然に床に置いたらこの状態なのです。↓

衽付け線


裾の背中心の部分

さらにひどいのは 裾の裏側の生地がやぶれているのも同然だということです。正常な場合と比べています。下にあるクリーム色のが普通の裾です。

背の裾縫い目が割れて 生地がひけている

横とじ糸のまわりの生地

後身頃が一番ひどくなっています。

横とじの糸が生地を傷めている

裾の部分がなぜこんなに傷むのか?
もともと八掛けの生地がそれほど丈夫ではない。この裾の部分というは 表生地、八掛け、芯生地と三つの異なる質の生地が重なっています。それに加えて 縫い糸が最低 二本は横に通っています。芯生地は木棉を使うのが一般的ですが 化繊を使っているのを見たこともあります。水につければ それぞれ縮み方が異なりますが 糸も正絹ですから 当然縮みます。糸の収縮率も異なります。裾は構造がほかより複雑であることと、 横とじが横と縦に伸ばす基点となり、生地を傷めてしまったのです。通常 何回も着物を着ると裾の部分が汚れて傷んできますが、ここまで横とじの周辺がいたむなら 裾そのものも擦り切れておかしくありません。


裏地の剣先部分

剣先部分を示した図

裏地の胴裏というのは 羽二重という生地が一番適しています。これが羽二重なのかどうかわかりません。 なぜ羽二重がいいかというと 生地の「くるい」つまり縮みが少ないからです。お店で高級裏絹とかいてあったりしても 鵜呑みにしてはいけません。水につけるとすごーく縮むものがあります。織る時に縦糸をひっぱって織るのです。絹糸はひっぱると伸びるのです。伸ばせばたくさん織れます。水につけると縮みます。女性の着物一枚分で売っている胴裏が 水につけたら 一枚分じゃなくなるぐらい縮むのです。

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裏側がこんなにぼこぼこだということは ぼこぼこにしないと 表側がかわりにぼこぼこになるということです。もし このような仕立てをしたら 許されないと思います。横と比べてください。