和裁中級2 衿肩明きの裁ち方

はじめに
着物の衿肩明きには三種類の裁ち方があります。長着と長襦袢は肩山に平行に裁つ方法が多数派です。これは洋服とは異なる着物の大きな特長の一つで、その方が着物を長く着られます。どのような考えからそのように言われるのかは推測の域ではありますが、直線ではなく、途中からカーブさせる方法で縫うのが現在の着物の仕立て方とする業者さんが出現しました。現在の着物の仕立て方というのは少し違っています。昔から長着や長襦袢でも衿肩明きをカーブさせる縫い方はありました。昔は義務教育で裁縫の時間を重視していました。着物の構造ぐらい知っていてあたりまえだったので、肩山に平行に衿肩明きを裁つ方が利点が多いと一般の人も知っていました。このページでは衿肩明きを肩山に平行に裁つ方法とその他の方法がどのように違うのかを説明します。業界全体で考えてほしい事ですが、一個人の和裁士では購入時に注意していただくようにお知らせする事しかできません。長襦袢と長着の衿肩明きの裁ち方が大きく異なると美しく着物は着れません。また衿肩明きは一度裁ってしまうとかえられないということを知ってほしいです。(かなりのお金をだして生地の補正をするのならべつですが、普通はやりません。)とりあえず「初級編2 衿肩周りの男女の違い」 「和裁初級2 繰り越しと切り越し」をご覧いただいて衿肩明きの部分をおさらいしてください。長襦袢が着物の土台になっているので、長襦袢の仕立て方が衿をきれいに着れるかどうかのポイントになります。

衿肩明きの裁ち方の種類

衿肩明きの位置

赤い線が衿肩明きの裁ち線です。半分の図を掲載しています。裁つ巾は同じなのですが途中からカーブさせる方法(二番)と肩山の位置まで大きくカーブさせる方法(三番)があります。まっすぐ裁つ場合は寸法さえ同じならば誰が裁っても同じです。日本国中の仕立て屋さんに聞いたわけではありませんが断ち切り2寸5分で背縫い3分という基本があります。一方、カーブについてはJIS規格のように日本全国共通の規格があるわけではありません。そして出来上がった着物を外から見ても上手に縫っていればいるほど衿肩明きの裁ち方の見分けがつきません。たとえカーブさせているとわかってもほどかなければカーブの形がわからないのです。仕立てた人以外はわからないというわけです。

衿肩明きの三種類の裁ち方

なぜ仕立てられると衿肩明きの裁ち方がわからないのか

出来上がった着物の衿肩明き部分をみる
洋服では型紙そのままが服の形となって出来上がりますが、着物は違います。左写真のように衿はまっすぐする事ができます。カーブさせる事もできますが置き方でどうにでもなるのです。まっすぐに見えますが衿肩周りから剣先までの間は体にそうようにカーブさせて縫います。このカーブは個々の仕立て屋で変わります。もちろん身巾など寸法によっても変わります。長襦袢、長着と順番に重ねて着ると決まっているので衿を綺麗にそわしたいなら同じ人に縫ってもらった方がよいというのはこのような理由からです。気に入った仕立て屋さんがいれば呉服屋さんに同じ人に仕立ててもらうように頼めばいいのです。極端に違わなければ着付けで上手く着れます。ところが衿肩明きの裁ち方が違うとそうもいってられません。着物の構造そのものが違います。洋服のように立体的に縫うのに近くなります。上級編3 和服の構造3 衿の位置と衿肩明きの関係をご覧下さい。下の図は赤く囲んでいる部分を拡大した図です。

囲んだ部分の中の拡大図

写真で赤く囲んだ部分を絵で描いた場合

下の図は三つの裁ち方でそれぞれ衿肩明きがどのようになっているのかを描いています。衿が直線に縫っているように描いていますが本当はゆるやかにカーブしていると思ってください。青丸が衿肩明きの裁ち方がわかる部分です。赤線が衿肩明きです。

衿肩明きがどのようになっているのか


直線とカーブはどのように違うのか

私は直線派なのでカーブさせて縫う着物を私費で作って研究できるほどの財力はありません。しかし最近のテレビや巷で着物を着ている人を観察すると女性の衿肩周りが妙に大きくて,へんなところにしわがよっている人がいます。男性は首にそっていなくて、だらしなく衿をあわせている人がいます。これは着慣れていないので着崩れているのか、仕立てが悪いのか、と考えてしまうのです。 肩周りが妙に大きいのは出来上がり繰越巾が大きすぎるからかもしれませんが、直線裁ちとは違う衿肩周りになっているようにも見えます。首にそっていないという事は洋服の知識を少々おかりすれば答えがでます。つまり衿肩明きが直線裁ちの着物は見かけはまっすぐですが、実際はカーブさせているので体の曲線にどこにでも沿わせられるようになっています。しかし大きくカーブさせると洋服と同じようにカーブが肩周りの形になります。その結果、カーブの形と肩の形が同じならば綺麗な衿になって着れますが肩の形がカーブと異なれば衿の形は崩れてしまいます。 Tシャツやトレーナーなど洋服の前と後を間違えて着ると体にそわないので着心地が悪くなります。既製品のサイズに近い人は綺麗に着れますが部分的に規格外だとそれがしわになってあらわれます。 つまり着物を体にあわすというよりはカーブを体にあわせるという着方になってしまうのではないでしょうか。


衿肩明きを比べる 1

繰り越しの巾の違い

直線裁ちで上の図のように繰越巾だけを変えてみました。出来上がり繰越巾は異なります。

肩回りの寸法の変化する位置

繰り越し巾は変化しますがそのほかは変わりません。
衿肩明きを比べる 2

衿肩明き直線とカーブきりの長さを比べる繰越巾は同じで直線裁ちと肩山までカーブさせた時です。カーブする時はある程度までは直線に裁ち、途中からカーブさせます。一見あまり変わりませんが、衿肩周りの長さはカーブの方が短いです。形は全く違います。
<衿肩回りの長さが変わる

衿肩明きを比べる 3

衿肩明きをカーブで裁って かつ繰り越し巾を変化させる

裁ち巾は同じですが繰越巾を変えます。繰越巾が大きい方が全体の裁つ長さが長くなりますが、長さだけでなく形も違います。

衿肩回りの長さはとてもおおきくなる

カーブ裁ちの場合は最初に直線に裁つ長さが異なると大きく形が変わります。重要なことは長襦袢と長着の衿をあわせることです。私の習った学校は直線に裁つ方法です。衿肩明きの裁ち巾は長着を基準にして長襦袢は-1分でした。つまり内側になる分、長襦袢の裁ち巾を狭くします。長襦袢と長着の関係だけでも考え方が違っている人(学校)があります。長襦袢の繰越巾を大きくするという考えのところもあるようです。自分で着ていて衿の沿いが悪くなった事がないので、長襦袢の方が狭くていいと思っています。繰越やつけ込みは長着と同寸です。カーブの裁ちの方は長襦袢と長着を同じ形で裁たなければ衿の沿いが悪くなってもおかしくありません。直線裁ちの方が誤差が小さくてすむという気がします。

実物 衿肩明き カーブ切りと直線裁ち

実物でカーブきりと直線たちがどれだけ違うのか比べてみます。
見本となっている着物は右側が直線たちの衿肩明き 一番のノーマルな 付け込み3分です。繰越は直線裁ちの場合なんとでもなりますが、一番ノーマルな5分にして肩山で折っています。 左側は衿肩明きが2寸8分の巾で 繰越7分つけこみ5分になります。これだけ衿肩明きの裁ち方が異なれば 出来上がった着物の肩まわりの大きさが異なることはわかると思います。
何度もいいますが 仕立てあがった着物を上からみただけで、左の衿肩明きの裁ち方がどのようなカーブをさせているかわかりません。着物は長襦袢を着てから長着を着ます。長着と長襦袢の衿肩明きの裁ち方をそろえることが必要です。
衿肩明きの裁ち方は商品の規格違いに相当する話です。紙にA4 B5などの規格があり、DVDにさまざまな規格があるのと同じです。

今までの経験上 カーブたちの衿肩明きの着物は何枚か見ましたが 2寸5分の裁ち巾で 繰越1寸のカーブたちなど カーブたちにもいろいろあります。この2寸8分の裁ち巾というのはかなり大きく、舞台衣装や芸妓さんや舞妓さんのような衣紋ぬきになります。

最近洗い張りの着物で 新たな衿肩明きの裁ち方をみました。こんなふうに裁つ仕立て屋がいるわけですから 仕立て屋がそれぞれ工夫しているともいえます。

ほかのカーブきりの衿肩明き