和裁初級9 付け下げの袖の柄位置2

視覚重視派と上前重視派

ここで取り上げているのは 一つの袖の内袖と外袖どちらか一方にしか柄が描いていない場合のお話です。
袖柄の配置には二つの考え方があるのです。着物全体で見た時に上前を重視する方法と視覚を重視する方法です。この二つどちらが正しいか?をいいだしたら論争になると思います。
もしかしたら 付け下げが作られた当時には論争になったのかもしれません。その結果なのかどうか、わかりませんが、
前ページで説明したように 製造者はどちらでもいいように特に指定していません。仕立て屋や着るご本人や最終的に売る呉服屋に下駄を預けているのです。
現実、売っている呉服屋さんは仕立て屋さんにお任せです。一般の方も考えたことなどないでしょう。仕立て屋も深くは考えないので、習った学校の方針に従っています。このことはアンケートをとりたいと思うぐらい、地域で異なるのか、学校で違うのかよくわかりません。 ただ 私の経験を話すと 私の習った学校では 視覚重視の後側派でした。学校を卒業してから上前重視派の仕立て屋さんがいると知りました。

視覚重視派

着るご本人は袖のどこに柄があるから着にくいなどということはなく、どこにあってもいいのです。それよりも他人が見ます。洋服を着ていると見られることなどないのに、着物を着ると周囲の視線がとても多くなります。着物を着たことのある人ならだれもが感じることです。ただ 正面からじろじろ見る人は少ない。見るのはやはり後方や斜め後方から眺めます。右袖の後側に派手な柄を配置するのは人から見られるということを重視しているのだと思っています。内袖の模様は広げて、わざと見せないとと見えにく位置ですね。後側は何もしなくてもくよく見えるのです。

上前重視派

着物の身頃は左側を上にして着ます。上前の方が格が上になるわけです。右袖と左袖では左袖が格が上であるという理由から、左内袖に柄を配置するのです。例えば 一方の袖が無地で、もう一つの袖に柄がある時は左内袖に柄を配置して、右袖は無地にします。私は視覚重視の後側派で習ったので、なぜ 左内袖に重点を置くのかはっきりした理由を聞いたわけではありません。たぶんそうだろうと思うのです。視覚重視派の理由から推測するとそれぐらいの理屈しか考え付かないのです。

どんなに偉い方がどちらが正しいと決められても、慣れし親しんだ方法がベストだと思っているので、いまさら 逆の方が正しいと決められても困ります。このページを見て、今までしているのと逆の方法をとったからといって、罪に問われることはないと思います。かなりおおげさですが。

なぜ右外袖、左内袖に柄を配置するのか?

あくまでも推測ですが。付け下げは昭和30年ごろに作られるようになったと聞いています。それより前の大正時代に訪問着の形式が整えられます。
訪問着の主な条件は「仮絵羽で売られていて、続き柄になっている、袷は八掛けも付いている」というものです。続き柄の一つの例として、上前衿に柄があり、そこから上前の胸元に柄が続いて、最終的に左内袖まで柄が続いているという描がき方があります。このように上半身の左側に柄を描いた場合 反対の後側の上半身の柄は 右肩から右外袖に柄が続くという配置が出来上がります。もしこれが左肩に柄を配置し左外袖に柄が続くとなると、着物の左側ばかりに柄が偏ることになります。全体のバランスを考えて 上半身の前側は左側に柄があり。上半身の後側は右側に柄があるとなったのではないかと思います。訪問着の柄位置に一つの規格ができたわけで、付け下げも続き柄はないが訪問着の柄位置が受け継がれていると想像できます。

右外袖に派手な方を配置する

この着物の柄の配置は一種の規格です。その昔 女性天皇が着物の前合わせを「右前」と法律で決めたことからはじまりました。もしも反対の前合わせを決められたなら、全く逆のことになっていたと思います。 着物にはいつのまにかできた、決まり事というのがあります。この決まり事が煩わしいという人もいますが、どちらとも決められないこともあるのです。その代表みたいなことだと思います。
和室に上座と下座があるように 着物にもそれがあるといわれたら 「へぇ~~ そうなの?」と思われるかもしれません。上前重視しか知らない人が私のような視覚重視派がいると知ると「へぇ~!?」となるのかもしれません。


もしも 袖にある「すみうち」が袖付け側の印じゃなくて 袖口側の印であるとなると、今まで説明してきたことはすべて逆になります。日本全国すべてを知っているわけではないのですが・・・。もしも 凝ったデザインでもないのに、「右内袖または左外袖に柄があって、反対には柄がない場合は 間違いか?」と問われると 普通、そのような柄の配置にはしないと答えておきます。袖の紋は後側にありますが、たまに 仕立て屋が左右を付け間違えて、仕立ててしまうことがあります。その場合は仕立て直さないとおかしいです。気がつかない時もあるんです。今回の事は紋ほど神経質にはならないと思います。