織物編13 紬

紬と他の織物の大まかな表現の違い

紬とほかの織物との違いは表現方法でわかります。ちりめんやお召を「やらかもん」という表現し、紬はそれにたいして「かたもん」という表現をします。 実際に触って比べるとわかります。

紬の歴史

「紬」は紬糸織の略で、現在では紬といいます。元々、 紬糸 は くず繭 で作ったのです。くず繭というのは養蚕で必ずできる繭です。蚕が繭を作る過程でうまくいかなかったりします。これが自然というものです。捨てるのはもったいないので、くず繭で糸をつむいで織物にしました。江戸時代、くず繭で作った織物まで贅沢品としてみなさなかったのです。戦のない時代が250年間続いたこともあり、地域の織物は産業はさかんになります。藩の財政を豊かにするためには織物産業は奨励されます。現在は着物離れになり、くず繭で絹織物がどれだけ作られているのかわかりません。

紬につかわれている糸について

紬で使われる糸は 無撚糸 や 甘撚り という撚りの少ない糸を使用します。生地の表面に 「ちりめん」 や 「お召」 のようなしぼがありません。(ただし 一部例外があって お召糸 を使用してしぼのある生地もあります。)
縦糸緯糸両方とも 紬糸 を使用している。経糸は生糸、緯糸は 紬糸 を使用しているというような、経糸と緯糸で種類が異なる場合もあります。
くず繭 から作る 紬糸 は 生糸 に比べると太くて節がある糸です。節がない細い紬糸もあります。また ほとんどの製糸は機械です。紬糸もほとんどが機械製糸です。そうでなければ お安い紬ができません。

節のある紬糸をつかった無地の紬

紬生地 ふしのある糸

↑ 100円玉を実物大にして見ましたが、この紬はよくあるちょっと厚めの無地の紬です。節があるのがわかります。肉眼では無地つまり一色に見えるので無地の紬といっています。これをもっと拡大すると経糸と緯糸が異なる色だということがわかります。縦糸緯糸同じ色の紬と共に下に写真を掲載してみました。紬では経糸と緯糸が太さが異なる時は 緯糸が太い方が多いです。

↓ 平織です。右側の方が緯糸に比べて経糸が細く、経糸がわかりにくいです。

ori13no2

節の少ない紬

ふしのない糸で作った紬
↑ こちらの紬はかなりしっかりした生地です。暇人ではないのですが 1センチ角に経糸64本緯糸28本ほどありました。上の二枚の紬は経糸33本から36本 緯糸は25本です。経糸が倍ほどあるのです。糸は撚りのある生糸で 上の二つに比べて 光沢もあります。平織になっています。光沢のある紬は経糸が半分でもあります。光沢のあるなしは密度よりも糸違いで、生地のかたい、やわらかいは密度が影響します。

紬の織り方

紬は平織が多いです。中にはそうでないのもあります。めずらしいのでたまたま残していた生地は どちらを表にしたのか忘れましたが 一方は横縞でもう一方は縦縞になっています。二重織の一種です。
二重織の紬

先染め織物 後染め織物

紬は 先染め織物 と 後染め織物 の両方があります。どちらにしても「おしゃれ着」であり「正装」としては着ません。その一方で緻密な手作業の紬は高価な織物もあります。値段と格は比例しないのです。
どのような産業でも新しい物が開発され商品化されます。着物も同じです。大正初期にその形式が整えられた訪問着は振袖や留袖のように続き柄になっています。続き柄は糸を染めて織る方法ではなく、白生地を織ってから染色します。紬訪問着も 後染め織物 です。後染めの紬が訪問着が作られるまでなかったのかどうかはわかりませんが、後染めの小紋柄や縞柄などの紬があります。そもそも なぜそうなのかわかりませんが、 後染め織物 の方が格が上なのです。糸を染めてから織る 「お召」 もおしゃれ着の範中です。紬がどんなに高価でもおしゃれ着だというのが前提ですが、訪問着という名前がつくことでおしゃれ着の中でも格が上という新たな紬を商品化したことは商売上手だと思います。糸は 紬糸 ではなく 生糸 で使う場合が多くなります。 生糸 の方が 紬糸 より格が上だからです。どんな着物もさまざまな技術者がいて一つの織物が産まれます。作業は分業です。染色の分野では先染めの紬をつくる染屋さんと後染めの紬をつくる染屋さんは別の業者さんです。その技術を同じ土俵で比べるわけにはいきません。

紬を呉服屋さんで見ていると 「後染めの紬しか持っていない」というと「ほんとうの紬は先染めですので ほんものをお持ちください。」といい 「先染めの紬しか持っていません。」というと「紬の訪問着は格が上なんです。」とかいわれるのです。売る時の台詞として、持っていない方を売ろうとして持っている方の紬をぼろくそにけなす店員がいるのにはうんざりします。そのような店員さんは「無視」して気に入った紬を購入してください。

生紬?

ネットで生紬の説明を読むと 紬糸をあまり精練しないで染色する紬と紹介したり 生糸をあまり精練しないで染色する紬と二通りあります。紬は糸の段階で精練(セリシンを取り除く)を行い、染色して織る(先染め織物)や織物にしてから精練し、染色する(後染め織物)があります。
「生織物」 「練織物」は生糸を精練しないで織る「生織物」。糸の段階で精練すると「練織物」といいます。紬糸を使った織物は「生織物」や 「練織物」とはいいません。しかし 現在は、生糸を使って織っている○○紬も多くありますが、昔からの習慣がそのままになっています。また生糸を精練しないで染色することを生(き)染めといいます。この生(き)という言葉はセリシンがのぞかれていないという意味でつかわれています。そこから生紬という名ができたのではないかと推測しています。セリシンが残っていると染色に技術がいると聞いたことがあります。 糸の段階で セリシンを取り除く度合いで 本練り 七分練 半練 があります。生紬がどれぐらいセリシンが残っているのかわかりませんが糊がきいたような感じの生地です。
糸を精練しないで染色してから織った生紬と糸を精練をしないで織り、できた白生地を精練しないで染色する生紬が考えられます。

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